脊椎損傷について(新たに)




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脊髄損傷(せきずいそんしょう、英語: Spinal Cord Injury)は、主として脊柱に強い外力が加えられることにより脊椎を損壊し、脊髄に損傷をうける病態である。


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脊髄損傷(せきずいそんしょう、英語: Spinal Cord Injury)は、主として脊柱に強い外力が加えられることにより脊椎を損壊し、脊髄に損傷をうける病態である。また、脊髄腫瘍やヘルニアなど内的原因によっても類似の障害が発生する。略して脊損(せきそん)とも呼ばれる。

脊髄を含む中枢神経系は末梢神経と異なり、一度損傷すると修復・再生されることは無い。現代の医学でも、これを回復させる決定的治療法は未だ存在しない。

脊髄を含む中枢神経系は末梢神経と異なり、一度損傷すると修復・再生されることは無い。現代の医学でも、これを回復させる決定的治療法は未だ存在しない。


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一 般 的 症 状


 損傷の度合いにより、「完全型」と「不完全型」に分かれる。「完全型」は脊髄が横断的に離断し、神経伝達機能が完全に絶たれた状態であり、「不完全型」の場合は脊髄の一部が損傷、圧迫などを受け、一部機能が残存するものを指す。

 完全型の場合、損傷部位以下は上位中枢からの支配を失い、脳からの運動命令は届かず運動機能が失われる。また、上位中枢へ感覚情報を送ることもできなくなるため、感覚知覚機能も失われる。つまり「動かない、感じない」という状態に陥ることになる(麻痺)。しかし全く何も感じないわけではなく、受傷部位には疼痛が残ることが多い。また、実際には足が伸びているのに曲がっているように感じられるとか、痺れなどの異常知覚、あるいは肢体切断の場合と同様、麻痺野で本来感じないはずの痛み(幻肢痛、ファントムペイン)を感じることもある。

 受傷後、時間が経過して慢性期に入ると、今度は動かせないはずの筋肉が本人の意思とは関係なく突然強張ったり、痙攣を起こすことがあり、これを痙性または痙縮と呼ぶ。感覚、運動だけではなく自律神経系も同時に損なわれる。麻痺野においては代謝が不活発となるため、外傷などは治りにくくなる。また、汗をかく、鳥肌を立てる、血管を収縮/拡張させるといった自律神経系の調節も機能しなくなる為、体温調節が困難となる。かつては脊髄損傷患者の寿命は健常者に対し、大幅に短縮されるというのが通説であったが、現在では医療技術の発展に伴い、およそ5%程度短いだけの平均寿命となっている。その分脊髄損傷患者の生活を改善する必要性が増していることになる。

 重症度の指標として、国際的に最も使用されているのは、米国脊椎損傷協会(ASIA: American Spinal Injury Association)の機能障害スケール(Impairment Scale)で、略してAISと呼ばれている。最も重いAから正常のEの5段階に分けられている。


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AISによる重症度分類

A(完全):仙髄領域(S4〜S5)に知覚または運動機能が残存していない。

B(不全):仙髄領域(S4〜S5)を含む神経学的損傷レベルより下位に知覚は残存しているが、運動機能は残存していない。

C(不全):神経学的損傷レベルより下位に運動機能は残存しているが、Key muscleの半数以上がMMT3未満である。

D(不全):神経学的損傷レベルより下位に運動機能は残存し、Key muscleの半数以上がMMT3以上である。

E(正常):知覚・運動機能は正常である。


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損 傷 部 位 と 障 害

ヒトの脊椎

 ヒトの脊柱は上から順に頸椎 (C1-7)、胸椎 (Th1-12)、腰椎 (L1-5)、仙椎 (S1-5)、尾椎 (1) に分けられる。損傷箇所が上に行くほど、障害レベルは高くなる。他者に障害の度合いを説明する際、「C5の完全型」「Th12の不完全型」等と表現することで、障害レベルをある程度伝えることが出来る。仙骨以下では排泄、勃起などの機能に支障をきたし、下部胸椎から腰椎では両下肢が麻痺し、車椅子の生活を強いられる。排泄が自力では困難となることは本人のみならず家族など介護者にとっては大きな負担となる。上部胸椎では腹筋背筋が効かなくなるため体幹の保持が困難となる。さらに頸髄を高い位置で損傷すると手指だけでなく呼吸筋まで麻痺し、人工呼吸器なしには生きられなくなる(以上全て完全型の場合)。神経診断学の知識を用いればある程度は損傷の部位を想定することができる。C3は横隔神経を支配するのでこの部位が障害されると自発呼吸ができなくなり人工呼吸器を用いなければならない。呼吸中枢は脳幹にあると考えられているので眼球頭振反射が陰性の場合は同様に危険な状態である。C5は上腕二頭筋を支配するので、これが障害されると自力で肘が曲がらなくなる。C6は手首を背屈させる、C7は手首を屈曲させ、上腕三頭筋を支配する。C8は指を曲げることに関与し、Th1は指を開いたり閉じたりする運動に関与する。それより下は運動神経ではなく感覚神経で評価する。Th4は乳首周辺の感覚に関与し、Th7は剣状突起周辺の感覚に関与する。臍部がTh10であり鼠径部がTh12である。

 頸髄損傷はC6あたりで起こることが頻度としては多く、C5が麻痺していないため上腕二頭筋は収縮ができるがC7より上位の損傷の場合は麻痺しているため上腕三頭筋が収縮できず肘を自力で伸ばすことができない。

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受傷原因

現在日本には10万人以上の脊損者がおり、毎年5000人以上があらたに脊髄損傷を負っている。1990 - 1992年の調査によると、受傷原因の割合は次の通りである。

・交通事故 (43.7%)

・高所からの落下 (28.9%)

・転倒 (12.9%)

・打撲・下敷き (5.5%)

・スポーツ (5.4%) 

・その他 (3.6%)

 近年はスノーボードなどあらたな受傷原因となるものも出てきており、構成は変化しているものと思われる。事故の防止、万一事故にあった際の身体の保護の重要性が増している。特に、交通事故によるものでは、オートバイ乗車中の事故を見過ごすことができない。件数自体は四輪車によるものより少ないが、オートバイ人口自体が圧倒的に少ないので、率としては高くなる。統計及び防護策についてはオートバイ#オートバイの事故、ヘルメット (オートバイ)参照。また2005年の福知山線脱線事故による脊髄損傷者は20人以上にのぼるとみられている。


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脊 髄 損 傷 の 管 理

 頭部外傷で脳圧が高まっている場合は首を屈曲するとそれだけで脳が頭蓋骨から引き出されるので脳ヘルニアが一気に悪化する。頸髄損傷の場合は首を屈曲するとさらに障害を広げるのは当たり前である。そういった意味で、多発外傷や鎖骨より上部の損傷がある場合は頸髄損傷があるものと考え頸部を中間位で固定しネックカラーを装着する。脳浮腫が起こっている場合は、急速輸液を行うと脳浮腫を助長するため禁忌である。脳圧降下剤を使うべきである。

 脊髄損傷が起きると神経原性ショックが起こり、血圧が下がり徐脈傾向となる。損傷したレベルより下の神経が完全麻痺するからである。ショックの時点では患者が将来完全麻痺となるのかは全く予測ができない。ショックから離脱した時点で不完全麻痺であったら回復する可能性がある。ショックは基本的には24時間から48時間以内に離脱すると言われているが損傷部位や症状によって差異が大きい。48時間経過しても完全麻痺であれば、それは永続的な麻痺となるとは限らない。脊髄浮腫の程度と期間によっても左右される。不完全麻痺になれば大抵は4時間以内に回復することが多い。ショックから離脱したかどうか判定するには球海綿体反射を用いることが多い。指を肛門にいれて亀頭または陰核を圧迫すると肛門が絞まる。これを球海綿体反射陽性といい、ショックから離脱した時の所見である。

リハビリテーション

受傷後、急性期を過ぎたらなるべく早くリハビリテーションを行うことが望ましい。

ICU(集中治療室)から一般病棟に移ったら、時機を見て少しずつベッドのリクライニング角度を上げていく(ギャッジアップ)。長時間仰臥していたことにより、血圧が低下しており、急に起こすと脳貧血を起こす。次に車椅子に移る訓練になり、脳貧血を起こさないようになればPT(理学療法)、手の機能に障害がある場合はOT(作業療法)といったリハビリに移る。

脊髄損傷のリハビリテーションとは失われた機能を回復させることではない。神経が再生しない以上、それは不可能だからである。リハビリの目的は、車椅子の操作などに習熟し、残された機能を最大限に使う訓練をすることである。

合併症

脊髄損傷による麻痺以外に、様々な別の身体的リスクが発生する。その中でも「二大合併症」といわれるのが褥創と尿路感染症である。

1)褥 創

褥創(じょくそう)はよく「床ずれ」と言い換えられることがあるが、実際にはそのような生易しいものではなく、血流障害による皮膚の壊死である。

  通常、長時間同じ姿勢で座っていたり横になっていると、接地面の血流が不足し、しびれるので無意識的に座位を変えたり寝返りを打ったりしているものである。ところが脊髄損傷によって感覚を失っているとそれが知覚できず、圧迫された部位が血行不良となって組織を冒してしまう。筋肉を自力で動かせないことによって肉が落ち(廃用性萎縮)、出っ張った骨が薄い皮膚を圧迫することもこれを助長する。最初は皮膚が赤らむ程度から、最も重篤な場合には真皮を突き抜けて脂肪層までえぐられるように壊死を起こすこともある。上述のように皮膚再生能力も落ちている為、こうなると数ヶ月に及び入院が必要となることも珍しくない。もっとも多い発症部位は仙骨部の突出部で、ついでくるぶし、背中などである。これを防ぐには、定期的に体を持ち上げたり(プッシュアップ)、頻繁に体位を交換する(自力で出来ない場合は介助が必要となる)しかない。

2)尿路感染症

尿路感染症とは、尿道から有害細菌が侵入することによって引き起こされる様々な障害のことである。

 多くの脊損者は自力で排尿できない為、カテーテル等を使って導尿を行う。このとき、カテーテルを介して雑菌が尿道、膀胱に入り、炎症や敗血症の原因となるのである。女性の場合は尿道口と肛門の距離が近く、尿道の長さも男性より短い為、リスクはより高くなる。排尿時には手指や器具の清潔を徹底し、尿が濁ったり発熱があったりした場合は速やかに医師の診察をうける必要がある。 近年ではバルーンカテーテルを入れたままにして外部からの雑菌が入らないようにする処置が主流のようである。


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治 療 に 向 け て の 研 究

破壊された脊髄を再生し、再び機能を取り戻すことは全世界の脊損者の願いであり、様々な分野で研究が進められている。

受傷直後

 米国では2012年に、受傷後24時間以内に除圧手術をすることで、それ以後に手術をした場合に比べて、AISが2グレード以上改善する率が2.8倍になると報告され、それ以後受傷後早期の除圧手術で運動機能が改善するという報告が多数なされてきた。また脊椎外科治療の向上を目指す国際的な団体であるAOSPINEでは、2017年に急性脊髄損傷の治療ガイドラインを公開し、受傷後24時間以内の除圧手術を推奨している。

 日本では2021年に群馬大学・東京大学を中心とした全国43施設での共同研究で、国際的にも最大規模のランダム化試験により、非骨傷性頚髄損傷に対する早期手術の有効性の調査が行われた。その結果、24時間以内の早期手術が、待機的におこなう受傷2週以降の手術に比べ、手足に生じた麻痺の回復を早めることがわかった。

 また非骨傷性脊髄損傷の高齢者に特化した2022年研究報告によれば、従来予後が悪いとされてきた高齢者の非骨傷性脊髄損傷にも、受傷後早期の除圧手術が有効である可能性が示された。

 かつて脊髄損傷の治療法がないとされていた1990年に、米国において、受傷直後、48時間〜72時間以内であれば、大量にステロイド剤を投与することによって後遺障害を抑える効果があるという報告がなされた。しかし確実性に疑問があり、副作用についても確認がなされていないこと、比較的若年の、再生力の強い患者以外には効果が薄いといわれている事、またこの方法は、日本はもとより米国においても州によっては認可されておらず、現在は一般的な治療法ではなくなっている。

 2005年7月には関西医科大学において、やはり受傷直後の患者に対し、自分の骨髄液を培養して脊髄に注入し、幹細胞の増殖を促すという方法の研究を進める計画が報じられた。

 研究段階ではあるが2009年7月に米国科学アカデミー紀要に掲載された研究論文によると食品添加物の青色1号の一種であるブリリアントブルーGを脊髄損傷したラットに投与すると回復が見られたとされる。損傷後4時間以内に投与すれば二次障害の炎症を抑えて永久的な麻痺を回避できる可能性があり研究が進められている。

 2014年6月16日、慶応大学などのグループが事故などで脊髄を損傷して78時間以内に、肝細胞増殖因子(HFG)を投与し、重度まひなどの改善を目指す臨床試験を始めると発表。有効性が確認されれば、日本国内で年間5000人と言われる新たな脊髄損傷患者の約8割に改善が期待できるとしている。

 2020年7月からAIS grade Aのみを対象とした第3相試験を開始し、現在進行中である。


再 生 医 療

現在最も有望視されているのが、骨髄や神経の幹細胞を用いた神経再生の試みである。動物実験では部分的な効果が報告されているが、人体に応用し治療に役立てるには未だ基礎研究の段階であり、研究の強力な推進が望まれている。主として人工多能性幹細胞、胚性幹細胞、肝細胞増殖因子の使用が研究されているが、クリアすべき課題も多い。例として、人工多能性幹細胞を用いた場合、免疫反応は回避できると考えられるものの、腫瘍となる可能性が指摘されている[8]。また、胚性幹細胞については、免疫反応や腫瘍化の問題に加え、倫理面での問題が指摘されている。肝細胞増殖因子の場合は、腫瘍化はしないとされているが、脊髄損傷直後でないと治療効果が発現しにくいとされている。

 2005年現在、唯一臨床治療として行われているのが、中国の北京首都医科大学において、鼻粘膜細胞(OEG)を注入することで脊髄の再生を図るというものである。しかし同大からは長期にわたる治療効果の検証において、世界の研究者を納得させるデータの提出が無く、激しい疼痛やOEGの入手先(中絶胎児から採取)など問題が多数あり、日本せきずい基金では「現段階で推奨できる治療法ではない」としている。

 2010年10月、アメリカのジェロン社が脊髄損傷の患者4人に対しES細胞を使用した臨床試験を開始したが、2011年11月に撤退を発表している。

 2014年3月6日、慶應大学の中村雅也准教授らのグループが京都市で開かれた日本再生医療学会で、脊髄損傷の患者に対するiPS細胞の臨床研究を2017年度に始める計画を発表。対象は、事故から2〜4週間後で、患部の炎症が収まり傷口が固まり始める前の患者となる。

いずれにせよ、受傷後時間を経た慢性期の患者については、機械のように「切れたワイヤハーネスを繋ぎ直す」というような簡単なものではなく、「切れたところから再び神経を生やす」ということになるため、仮に神経再生が可能となったとしても、正常な位置に正常な神経が到達できるかは未知数である。

 2018年11月13日、慶応大学の岡野栄之(生理学)と中村雅也(整形外科)らのグループが計画する脊髄損傷の患者にiPS細胞から作成した神経前駆細胞を移植し、機能改善を試みる世界初の臨床研究計画について、同大学の審査委員会は、実施を大筋で認めた。計画では、脊髄を損傷し感覚が完全に麻痺した18歳以上で、損傷から2~4週間経過した患者4人に対し、京都大学iPS細胞研究所に備蓄するiPS細胞から分化させた、神経前駆細胞を1人当たり約200万個作って損傷した部位に移植。他人由来の細胞移植となるため免疫抑制剤も投与し、リハビリも行う。その後1年かけて有効性や安全性を確認する。試験は2019年に実施予定。

 2018年11月22日、厚生労働省の再生医療製品を審議する部会がニプロと札幌医科大学が開発した脊髄を損傷した患者の骨髄液から「間葉系幹細胞」を採取し、点滴で戻す「ステミラック注」の製造を承認し。治療の対象は自力で歩けないなど比較的重症の患者で、損傷から1カ月以内に骨髄を採取し、失われた感覚や運動機能の改善が期待されるとされる。

 2019年2月20日開催の、中央社会保険医療協議会総会で、ヒト細胞加工製品(ヒト体性幹細胞加工製品)として「ステミラック注」の2019年2月26日付けで薬価基準収載が決定した。対象は、外傷性脊髄損傷で、ASIA機能障害尺度がA、B、又はCの患者に限られる。収載された薬価は、1回分 14,957,755 円である。

 受注開始は2019年4月で、供給当初においては、札幌医科大学附属病院のみへの提供となる。

 2022年3月、札幌医科大学整形外科教授が、「現在までに70例以上の脊髄損傷症例に対しステミラック投与を行い、比較的良好な機能回復が得られている」とコメントをだした。

  2023年10月16日、慶應義塾大学医学部は「脊髄損傷に対するヒトiPS由来細胞移植を用いた2期的治療法の開発に成功-肝細胞増殖因子前投与によるヒトiPS由来細胞移植療法の治療効果促進-」と発表した。


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運動機能の回復

 厳密には「治療」ではないが、失われた運動機能を補助する研究が二方面から行われている。ひとつは「外骨格」のように体にフレームを取り付け、歩行を可能にしようというもので、いわばパワードスーツに相当するものである。埼玉県所沢市の国立障害者リハビリテーションセンターや、藤田保健衛生大学のWPAL(Wearable Power-Assist Locomotor)など各所で研究が続けられているが、ロボット工学の発達により今後の成果が期待される分野である。

もうひとつは体内に電極を埋め込み、体外に接続されたコントローラーから神経に直接電気刺激を与え、本来の筋肉を動かそうというものである。既にフランスなどで実験的な施術例がある。しかしまだ極めてギクシャクとした動きしか出来ず、また長く使用しているうちに筋肉が発達してくることによりコントローラーのプログラミングを頻繁に調整しなくてはならないなど、完全な実用化への道のりはまだ遠いようである。



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家庭版 

知っておきたい基礎知識/リハビリテーション

脊髄損傷後のリハビリテーション


脊髄損傷後のリハビリテーション

執筆者:Zacharia Isaac, MD, Brigham and Women's Hospital

レビュー//改訂 2023年 12月

 脊髄損傷からどこまで回復できるかは、損傷の位置と程度によって決まります。脊髄の損傷部位が高い位置にあるほど、肉体的障害は大きくなり、リハビリテーションの必要性も高まります。胸より下の高さの損傷は、両脚に筋力低下や麻痺(対麻痺)を引き起こします。首の高さの損傷は、四肢すべてに筋力低下や麻痺(四肢麻痺)を引き起こします。首の非常に高い位置に損傷を受けると、呼吸をコントロールする筋肉が麻痺するため、人工呼吸器による補助が必要になります。損傷部分から下の部位の感覚も損なわれ、通常は排尿や排便が制御できなくなり、尿失禁や便失禁がみられるようになります。

四肢麻痺や対麻痺の患者をケアする際に重要なことは、以下の2つです。

床ずれを防ぐこと:床ずれを防ぐためには、患者を頻繁に動かし、向きを変えます。また、特別なベッドや敷物を使います。車いすを使用している場合は、水や空気、ゲルを入れた特別なクッションを使って床ずれができやすい部分への圧力を和らげます。

関節の動きを維持すること:関節の動きを維持してけい縮を予防するため、患者や介護者は頻繁に関節を可動域いっぱいに動かすようにします。温熱療法やマッサージ、特定の薬剤を用いる場合もあります。

筋肉の収縮(拘縮)を防ぐ処置も行われます。

 対麻痺のある人は、1人で生活することができます。腕と手を関節可動域訓練と筋力強化訓練で鍛えれば、車いすに乗ることができますし、ベッドから車いす、車いすからトイレ、車いすから自動車の座席への移乗もできるようになります。日常生活における多くの動作を自分でできるようになり、多くの人が仕事に復帰しています。補助器具を使って自動車を運転できる対麻痺の人もいます。

 四肢麻痺の人は電動車いすを使えば1人で移動できますが、車いすに乗るには人の力や機械の力を借りなければなりません。四肢麻痺があっても、わずかに手や指を動かせるなら、手持ち式のスイッチで電動車いすを操作できる場合があります。手や腕が完全に麻痺している場合も、特別な装置を使用することで、あごの動きや息によって電動車いすを制御することができます。ただし、この方法にはとても集中的な訓練が必要になります。四肢麻痺がある人の大半には、24時間の介助が必要です。


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慢 性 痛

 腰痛のような特定の病気による慢性痛は、慢性身体障害の最も一般的な原因の1つです。慢性痛の管理は、一般的にはリハビリテーション専門医または疼痛管理の専門医が監督します。慢性痛は複雑な病態ですので、その治療には多くの場合、以下の組合せが必要になります。

監督者ありでの運動(体幹の筋肉を強化し、姿勢を改善する)

一般的な運動(個人またはグループのフィットネスクラス)

徒手理学療法またはカイロプラクティック

・マッサージ療法

・鍼(はり)治療

。痛みの神経科学に関する教育(痛みの生物心理社会的原因について話し合う)

・認知療法(例えば、認知行動療法、疼痛再処理療法)

・瞑想

薬 物 治 療

注射/外科への紹介(適切な場合)

関節炎:

関節炎の人では、関節の可動域と筋力を増大させる活動や運動と関節を保護するための戦略が有益です。例えば、以下のような対策が勧められることがあります。沸騰したお湯とパスタが入った鍋をコンロから流し台まで運ぶ場合、鍋を持って運ぶのではなく、滑らせて移動させる(関節にかかる過度の痛みや負担を回避するため)、浴槽への出入りは動作を段階に分ける。

座面が高くなった便座、浴槽用の椅子、またはその両方を使用する(脚の関節に生じる痛みや負荷を軽減するため)

物の取っ手(例えば、ナイフ、料理鍋、フライパンの取っ手など)に発泡プラスチック、布、またはテープを巻いて、握るときのクッションにする。

炎症を起こした関節、不安定な関節、痛みがある関節を副子(シーネ)で保護する。

人間工学的に設計された大きな取っ手付きの道具を使用する。

下垂足:

下垂足とは、関係する筋肉の筋力低下や麻痺のために、足のつま先をもち上げるのができなくなることです。足を踏み出すときに、足のつま先を引きずります。下垂足の人は、つま先が引っかからないようにするために、歩行中、脚を通常より高くもち上げることがあります。下垂足は神経の損傷(多発神経障害)によって引き起こされることがあり、糖尿病の患者でよくみられます。多発性硬化症、腫瘍、脳卒中など、脳または脊髄に影響を及ぼす疾患または損傷によって引き起こされることもあります。

下垂足の治療には基礎にある原因の治療が含まれます。短下肢装具と呼ばれる装具をつけると、下垂足のある人の歩行に役立ちます。影響を受けている筋肉の強化やストレッチを目的として理学療法や作業療法を行ったり、短下肢装具の適切な装着と使用の方法を学んだりすることが助けになる可能性があります。下垂足が多発性硬化症によるものである場合は、足を持ち上げる神経を刺激する神経刺激療法が有益なことがあります。病気が進行しても仕事で必要な技術を維持する上で、職業カウンセリングが役立つことがあります。


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重症疾患の後に生じた神経損傷に対するリハビリテーション

重症疾患多発神経障害(critical illness polyneuropathy)は、全身の筋力低下を引き起こす神経疾患です。ICU(集中治療室)で人工呼吸器をつけていた人に最もよくみられます。横隔膜、四肢、顔面筋および背筋の筋力低下を引き起こします。回復には3週間から6カ月かかります。理学療法や作業療法が筋力の回復に役立ちます。最初の段階では、褥瘡、拘縮(腕や脚の筋肉が永久的に固まって、曲がったままになること)、および神経への圧迫による神経損傷を予防するのに役立ちます。

リハビリテーションが進むにつれて、理学療法および作業療法は患者が普段の生活に戻る助けとなり、これには筋力トレーニング、適切な歩行を助けるための可動域の訓練や歩行訓練、ならびに適切な装具および杖などの補助器具の使い方の指導が含まれます。


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目 標

リハビリテーションチームや理学療法士、作業療法士は、個々の問題に対して短期的目標と長期的目標の両方を設定します。例えば、手にけがをして、可動域が制限され、筋力が低下している人の場合、短期的な目標として、一定の範囲で可動域を広げることや、数キログラムの物を持てるほどに握力を高めることを設定します。長期的な目標として、例えば再びピアノを弾けるようになることなどを設定します。短期的な目標があると、短い間に達成する内容が明確になります。長期的な目標があると、リハビリテーションで数カ月後に何がどこまで得られるのかを把握しやすくなります。チームはこの短期目標を達成するよう患者を励まし、経過を注意深くモニタリングします。患者の気が進まなくなったり経済的な理由などで続けられなくなったとき、あるいは進行が予想より遅かったり早かった場合には、目標が変更されることもあります。多くの状況では、目標を設定することで、患者が再び歩けるようになり、日常に欠かせない活動(服を着る、髪を整える、入浴する、自分で食事する、料理する、買い物するなど)を行えるようになる一助とします。

機能障害の程度やリハビリテーションチームの技術にかかわらず、リハビリテーションで得られる最終的な成果は、患者のやる気に左右されます。家族や友人の注意をひきたいために回復を遅らせる患者もいます。


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加齢に関連する注意点:

リハビリテーション

高齢者では、リハビリテーションを必要とする病気(脳卒中、心臓発作、股関節骨折、腕や脚の切断など)がよくみられます。しかし高齢者には、以下のようなリハビリテーションを困難にする特徴がよくみられます。

身体機能が低下している

・筋肉(心臓の筋肉を含む)が弱っている。

・持久力が低下している

・うつ病や認知症がある

・平衡感覚、協調運動、または敏捷性に問題がある

・関節が硬直している

 それでも、年齢だけでリハビリテーションを延期または拒否する理由になりません。高齢者は回復も遅い場合があります。結果として、高齢者向けに特別に設計されたプログラムが望ましい選択になります。高齢者では若い人の場合と比べて、目標も変わってきますし、必要になるケアも異なることが多いです。高齢者向けのプログラムを実施すれば、若い人と進捗を比較して、やる気を失ってしまう可能性が低くなります。

作業療法

作業療法は、リハビリテーションの一要素で、基本的なセルフケア活動、有用な動作や作業、および余暇活動を行う能力を高めることを目標とします。そのような活動には、基本的な日常活動(食べる、服を着る、入浴する、身だしなみを整える、トイレに行く、移乗する[いすからトイレやベッドに移る]など)と、より複雑な日常活動(食事の準備をする、電話やコンピュータを使う、お金や日々の投薬スケジュールを管理する、買い物をする、運転するなど)が含まれます。

作業療法では、単純な活動に必要になる多くの能力を協調させることに焦点が置かれます。

・感じて、動く能力

・計画を立て、実行する能力

・活動への意欲をもち、最後までやり遂げる能力

これらの能力は様々な形で損なわれる可能性があります。

単純な活動を妨げる可能性のある障害

作業療法士は、患者を観察したり、特定の検査(バランステストなど)を行ったり、他の医療専門職、家族、介護者と話をしたりすることによって障害を突き止めることがあります。

作業療法士は、患者が自然な環境である活動をする様子を観察することで、ニーズを評価します。また社会的・物理的環境に関わる潜在的な問題の特定を試みます。患者の自宅を評価して、患者が活動する妨げになりうる危険がないか調べます。自宅をより安全にする方法を推奨することもあります。例えば、より明るい照明を使用する、人の歩く領域を電気製品のコードが横切らないように整理する、コードを床に固定するなどの対策が勧められます。また、家族や他の人々から得られるサポートについても評価します。

専門の訓練を受けた作業療法士が車の運転能力を評価し、運転の再訓練が必要かどうかを判断することもあります(高齢のドライバーを参照)。

知っていますか?

作業療法士は主に、病気やけがで特定の日常活動ができなくなった患者に対し、それらの活動を再び行うことができるように支援します。

マジックハンドや持ち手の大きい食器や道具など、患者の動作を助けるための特別な器具が多数あります。

患者は作業療法士とともに、訓練の目標を決めて優先順位をつけ、適切な手法と活動を選択します。例えば食器を使って食べることが困難な場合は、くぎをペグボード(くぎ差し盤)に差し込むなど、細かい動きを発達させる作業が治療として行われます。記憶ゲームは、認知能力や思い出す能力を改善します。また、順応性を高める訓練は、患者のもつ能力を用いて障害を補うのに役立ちます。例えば腕に麻痺がある人は、服を着る、靴ひもを結ぶ、ボタンを留めるための新しい方法を身につけることができます。患者の進歩に合わせて、より難しくやりがいのある訓練が行われます。

補助器具

作業療法士は、患者が1人でできることを増やすのに役立つ器具(補助器具)を勧めます。作業療法士は患者とともに器具を使用するための訓練を行い、特定の器具を作って取り付けることもあります。以下のような器具が使用されます。

装具は、損傷した関節、靱帯、腱、筋肉、骨をサポートするために用いられます。ほとんどの装具は、使用者のニーズと体の形態に基づいてカスタムメイドで作られます。装具は多くの場合、靴の中にいれて使用しますが、それにより本人が足の異なる部位に体重を移すことで失われた機能を補ったり、問題の発生を回避したり、体重の一部を支えたり、痛みを緩和するといった補助の役割を果たします。作業療法士がそれらの装具を作ったり取り付けたりすることがあります。装具は非常に高価なことが多く、保険の適用外であることもしばしばです。

副子(スプリント)を使用すると、決まった位置で関節が固まらないようにすることができます。腕や脚を通常のように動かすことができない状況(関節炎や脳卒中による麻痺など)になると、その腕や脚がわずかに曲がり、そのまま固まることがよくあります。副子をあてて腕や脚をまっすぐに保つと、関節が曲がったまま固まらないようにすることができます。

歩行補助具には、歩行器、松葉杖、ステッキなどがあります。これらの器具は使用者の体重やバランスを支えます。どの器具にも長所と短所があり、多くの型があります。最適な歩行補助具を選ぶときは、作業療法士の助けを借りることができます。

車いすを使用すると、歩くことができなくても移動することができます。自走式の車いすは非常に安定しており、平らでない地面や縁石を乗り越えることができます。ほかに協力者が押して進む車いすもあります。このタイプは安定性に欠け、低速です。

電動スクーターは、ハンドルや操作レバーが付いたバッテリー駆動の車輪付きカートです。速度を制御することができ、前進と後退が可能です。スクーターは屋内でも屋外でも使用でき、固く平らな地面を走行できますが、階段や縁石のある場所では使用できません。短い距離(例えばスクーターを置いてある場所までの行き来など)であれば歩行できる人には有用です。

義肢は人工の手や腕または足や脚です(腕や脚の切断を参照)。例えば、作業療法士は腕を切断した患者に、食器をはさむことができる器具の付いた義手を勧めることがあります。大半の作業療法士は、片腕を切断した患者に対し、日常活動を助ける義手などの器具の使い方を指導することができます。

理学療法

理学療法は、リハビリテーションの一環であり、背中、上腕、脚に重点を置いた運動療法と整体を行います。関節や筋肉の機能を改善し、患者がより容易に立ち、バランスをとり、歩き、階段を上れるようにします。具体的な手法としては以下のものがあります。

・関節可動域訓練

・筋肉強化運動

・協調・バランス運動訓練

・歩行訓練

・全身調整訓練

・移乗訓練

・ティルトテーブル訓練

関節可動域訓練

脳卒中を起こしたり、安静臥床の状態が長期化したりすると、関節を動かせる範囲(関節可動域)が狭くなります。関節可動域が狭くなると、痛みや運動能力の阻害が起こり、皮膚の損傷(皮膚の崩壊)や床ずれのリスクが増加します。関節可動域は一般的に年齢とともに狭くなりますが、たとえそうなったとしても、通常は健康な高齢者が自分のケアを行えなくことはありません。多くの場合、理学療法士は、治療を始める前に関節の動く角度を測定するゴニオメーターと呼ばれる装置で可動域を評価します。また理学療法士は、可動域が狭くなったのは筋肉が硬くなったためなのか、靱帯や腱が硬くなったためなのかを判断します。筋肉が硬くなったことが原因であれば、精力的に関節のストレッチを行います。靱帯や腱が硬くなったことが原因であれば、関節のストレッチは弱めにしますが、関節可動域訓練を進める前に手術が必要になる場合があります。ストレッチは、通常、組織を温めて行うと最も効果的で最も痛みが少なくなります。そのため、理学療法士はまず温めることから始めます。

関節可動域訓練には3つのタイプがあります。

能動運動は、介助なしで筋肉や関節の運動ができる人に適しています。自分で両腕両脚を動かします。

自動介助運動は、わずかな補助で筋肉を動かせる人や、関節は動くけれど動かすと痛みを感じる人に適しています。患者は両腕と両脚を自分で動かしますが、その際には理学療法士が手やバンドなどの機具を使って補助します。

他動運動は、自発的な運動ができない人に適しています。患者自身の努力は不要です。理学療法士が、拘縮(動かさないことによって生じる筋肉の永久的な硬直)を予防することなどを目標として、患者の手足を動かします。

自動介助運動や受動運動はけがをしないようにゆっくりと行いますが、多少の苦痛を伴います。

理学療法士は可動域を広げるため、可動域の狭くなった関節を、痛みを感じる位置を越えるまで動かしますが、この動きで残存痛(動作をやめた後も続く痛み)が生じることがないようにします。適度な力で持続的にストレッチする方が、強い力で瞬間的にストレッチするよりも効果的です。

肩の可動域の拡大

療法士が一方の手で患者の肩を固定し、もう一方の手で患者の肘をゆっくりと、できるだけ高く持ち上げます。訓練を重ねると、肘はだんだんと高くまで上がるようになり、関節可動域が広がります。

筋肉強化運動

多くの運動で筋肉が強くなります。いずれの運動でもだんだんと抵抗を増やしていきます。筋肉がとても弱っている場合は、重力だけでも十分な抵抗になります。筋力がついてきたら、ストレッチバンドや重量を使って抵抗を徐々に増やします。このようにして筋肉の大きさ(量)と筋力を増加させ、持久力を改善します。

協調・バランス運動訓練

この運動は、脳卒中や脳の損傷が原因で協調運動や平衡感覚に障害がある人に役立ちます。協調運動訓練は、特定の動きができるようになることを目的としています。この訓練では、物を持ち上げたり、体の一部にさわったりといった、複数の関節と筋肉を使う重要な動作を繰り返します。

バランス運動は、はじめに平行棒を使い、理学療法士が患者のすぐ後ろに立つようにします。患者は体を左右にゆするように動かし、右脚と左脚の間で体重を移動させます。この運動を安全にできるようになったら、体重を前後に移動させます。患者はこれらの運動をマスターしたら、平行棒なしでこれらの運動を行えるようになります。

歩行訓練

補助あり、補助なしを問わず、歩けることがリハビリテーションの目標です。歩行訓練を始める前に、患者は立った状態でバランスをとれるようにしなければなりません。バランスをとれるようにするには、患者は通常、平行棒を握って体重を前後左右に移動させます。安全を確保するため、理学療法士が患者の前または後ろに立ちます。歩行訓練を開始する前に、関節の可動域の拡大や筋力の強化が必要になる場合もあります。人によっては、ブレースなどの矯正装具が必要です。

歩行訓練を始められるようになったら、平行棒を使った訓練から開始し、それから歩行器、松葉杖、ステッキのような補助器具を使った歩行訓練へと進みます。補助ベルトを着ける必要のある場合がありますが、これは理学療法士が患者の転倒を防ぐ目的で使用します。

水平な場所を安全に歩けるようになったら、出っ張りを越える訓練や階段を上る訓練を始めます。階段を上るときには、けがをしていない方の脚から踏み出すようにします。階段を下りるときには、けがをした方の脚から踏み出します。「よい方は上り、悪い方は下り」という言い方をすれば覚えやすいでしょう。患者の歩行を助ける家族や介護者は、正しい介助の仕方を学ぶ必要があります。


知っていますか?

歩行が困難な人にとっては、ベッドからいすまで、また車いすからトイレまで安全に移動できるようになることは、自立した生活の助けになります。

歩行の介助

患者が歩行の際に介助を必要とする場合、家族や介護者は患者の腕の下に自分の腕を入れ、前腕をやさしくつかむようにします。介助者は自分の腕を固定し、患者の上腕に自分の上腕をしっかりと付けます。患者がふらついたら、介助者は肩で支えるようにします。患者に特別なベルトを着用させ、必要に応じて介護者が背中側をつかみ、患者を安定させられるようにする場合もあります。

全身調整訓練

長期間の安静臥床や不動による影響への対策として、関節可動域訓練、筋力強化訓練、歩行訓練を組み合わせて行います。全身調整訓練により、心血管機能(心臓、肺、血管が酸素を送って筋肉を動かす能力)が改善されるとともに柔軟性と筋力が維持または強化されます。

移乗訓練

多くの患者(特に股関節骨折、切断、脳卒中の患者)にとって、移乗訓練はリハビリテーションの重要なゴールになります。ベッドからいす、車いすからトイレ、いすから立った姿勢に1人で安全に移動できるようになることは、自宅にとどまるために必要不可欠です。介助なしに移動できない人には、一般的に24時間介護が必要です。介護者は、歩行ベルトやハーネスなどの特別な器具を使って患者の移動を助けます。

移乗訓練に用いられる手法は、以下に該当するかどうかに応じて変わります。

・片脚または両脚で体重を支えることができる

・バランスをうまくとることができる

・体の片側に麻痺がある

補助器具が役に立つ場合もあります。例えば、座った姿勢から立ち上がるのが困難な人は、座面が昇降する起立補助いすなどの補助器具を使うと便利です。

ティルトテーブル訓練

何週間も厳格な安静臥床の状態にあった場合や、脊髄損傷がある場合は、立ち上がったときに血圧が急に低下することで(起立性低血圧)、めまいが起きることがあります。このような場合にはティルトテーブル訓練が役立ちます。ティルトテーブル訓練は、姿勢の変化に応じて血管を適切に収縮または拡張させるための訓練で、姿勢の変化に応じた血圧の調整に役立ちます。患者は踏み台の付いたクッション付きテーブルの上にあお向けになり、安全ベルトで固定されます。テーブルが極めてゆっくりと、患者が耐えられる速度で傾けられ、ほぼ直立の状態になります。姿勢がゆっくりと変わることで、血管は収縮する能力を回復することができます。直立の姿勢を維持する時間は患者が耐えられる程度によって変わりますが、45分を超えないようにします。ティルトテーブル訓練は、1日1回または2回行います。訓練の効果は障害の種類や程度によって異なります。

痛みと炎症の治療

リハビリテーション療法士は痛みと炎症を治療します。そのような治療により患者は体を動かしやすくなり、より全面的にリハビリテーションに取り組めるようになります。それらの治療法はしばしば運動療法の前後に行われ、全体的なリハビリテーション計画の一部を構成します。以下のような手法が用いられます。

・温熱療法

・低出力レーザー治療

・寒冷療法

・電気刺激

・牽引

・マッサージ療法

・鍼(はり)治療

温熱療法にするか寒冷療法にするかは患者とともにリハビリテーション療法士が決定しますが、急性の痛みには寒冷療法の方が効果的であるようです。温熱療法や寒冷療法を行う際には、熱傷や低温による障害を起こさないようにしなければなりません。


温 熱 療 法

温熱は血流を増やし、結合組織を柔軟にします。また関節のこわばり、痛み、筋肉のけいれんを一時的に軽減します。温めることによって、組織にできた体液の貯留(浮腫)も減少します。温熱療法は、一部の関節炎などで生じる痛みや硬直の緩和や、挫傷やねんざなどのけがによる筋肉のけいれんの軽減のために用いられます。

体の表面を温める方法と、体の奥深くの組織を温める方法があります。ホットパック、赤外線加熱、パラフィン浴、水治療法(温水マッサージ)では、体の表面に熱を与えます。超音波(周波数の高い音波)を利用する方法では、体の奥深くの組織で熱を発生させます。

温熱療法の種類

低出力レーザー治療(コールドレーザー)

低出力レーザー治療では、より深いところにある組織に光エネルギーを照射することで、ねんざ、挫傷、首や背中の痛み、肩の痛み、線維筋痛症を治療します。眼、がんがある部位、妊娠中の胎児、ペースメーカーなどの埋め込み型器具、および甲状腺には用いることができません。光に過敏なてんかん患者では、その光がけいれん発作の引き金になる可能性があります。患者と医療専門職を含めて、この治療を行っている部屋の中にいる人は、適切な安全眼鏡を着用しなければなりません。

寒冷療法(凍結療法)

冷却することによって組織の感覚を鈍らせ、筋肉のけいれん、外傷による痛み、最近発生した腰痛や炎症を和らげることができます。氷のう、アイスパック、気化するときに熱を奪う液体(塩化エチルなど)を使って冷却します。組織の損傷と体温低下(低体温症につながります)を避けるため、理学療法士は冷却剤の量や冷やす時間を限定します。血流が減少した組織(例えば、末梢動脈疾患では動脈が狭くなる)は冷却しないようにします。

電気刺激

末梢神経損傷、脊髄の病気、脳卒中などで神経から筋肉に適切に信号が伝わらないと、筋肉はすぐにやせ衰え(筋萎縮)、硬くなり、収縮(けい縮)します。電気刺激は、皮膚に電極を取り付けることによって筋肉の収縮を誘発し、萎縮やけい縮の予防を助ける運動を行います。

経皮的電気神経刺激(TENS)と呼ばれる電気刺激では、筋肉の収縮を誘発しない低電流を用います。TENSは慢性的な背部痛、関節リウマチ、足首のねんざ、帯状疱疹、局所的な痛みに対して有用です。TENSでは、電池で動く手持ち式の装置で電流を発生させ、皮膚に取り付けた電極を介してその電流を送ります。TENS装置はピリピリした感じを与えますが、痛みはありません。

経皮的電気神経刺激は1日に数回、20分から数時間行われますが、この回数や時間は痛みの程度によって決まります。多くの場合、患者は必要に応じてTENS装置の自宅での使い方を教えてもらえます。ほとんどの人がこの治療法に十分耐えられますが、すべての人の痛みが緩和されるわけではありません。TENSは不整脈を引き起こすことがあります。そのため、重症の心疾患がある人やペースメーカーを使用している人は受けることができません。TENSを眼の近くに当ててはいけません。

牽  引

首の骨の変性症(頸椎症)、椎間板の断裂、むち打ち症、首の筋肉のけいれん(斜頸―局所性ジストニアと分節性ジストニアを参照)などによる慢性的な首の痛みを治療するため、病院、リハビリテーションセンター、家庭などで首の牽引を行うことがあります。牽引は、ベッドで横になるよりも座って行う方が効果的です。通常は、モーターを使ったシステムが最も効果的です。

一般的に牽引は、身体運動やストレッチなどの他の理学療法と併用されます。頸部牽引装置は一般向けのカタログを通じて入手できますが、理学療法士が装置の種類を選択し、使用する重りの量を決定するべきです。患者が1人でこのような装置を使用してはいけません。けがのリスクを減らすため、重量を徐々に減らすことができるように家族が付き添う必要があります。


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労災疾病等研究普及サイト(から)


脊髄損傷・脊椎損傷とは

「脊髄損傷」のお話し


脊髄(脊椎)損傷

脊髄とは脳から背骨の中を通って伸びている太い神経のようなものです。頭をポリポリ掻いたり、こっそりつまみ食いをしたり、人間の体を動かす様々な指示は脳からこの脊髄を使って全身に伝わりますので、人間にとってとても大切な部分といえます。

「脊髄損傷」みなさんも聞かれたことがあるかもしれません。交通事故や高い所から落ちたりしたことが原因で起こるケースが大半とみなさん思ってみえるかもしれません。しかし、これは高齢化が進んだ日本ではすでに古い認識で、最近では高齢者が転倒や転落が原因で起こるケースが大半となっています。脊髄は脳と同じ中枢神経なので、一度傷つくと二度と再生することができません。しかもその損傷個所に伴い、体に麻痺が残るので「ただ頭を打って、手足がしびれただけ」と言ってそのままにしておくのは避けた方がよいと思います。通常の単純X線撮影だけでは見逃してしまうような場合もあるので、なるべくCTやMRI撮影を行った方がよいといえます。

最近の日本では高齢化による頸椎変形が原因でちょっとした刺激で引き起こる「非骨傷性頚髄損傷」が増加傾向にあり、日本の脊髄損傷の約70%を占めます。「非骨傷性頚髄損傷」は「中心性頚髄損傷」(頚髄の中心部分が損傷している状態)となることが多いです。頚髄の中心には上半身に行く神経が集まっており、逆に外側には下半身に行く神経が集まっています。「中心性頚髄損傷」では手のシビレや麻痺、物に触れることができないような激しい痛みなどが慢性的に続きます。高齢者で発症時期や発症機転が不明確な場合、しっかりとした検査が実施されず、「脳梗塞」や「加齢変化」などと誤った診断がなされていることもあります。

また、骨粗鬆症など骨が弱っている高齢者などには尻もちをつくなど簡単な外傷が原因で、胸から腰にかけて圧迫骨折・破裂骨折を引き起こすこともあるので注意が必要です。65歳以上の高齢者の約40%に脊椎骨折があるといわれています。しかも「この時にケガをした」ときっかけや原因がわかる割合は約1/3で、約2/3はわからないといわれています。さらに、最近では高齢者や持病を持った人が増えたため、約15%の脊椎骨折がくっつきません。ケガをしたときは麻痺がなかったのに、くっつかないために麻痺が出てきて歩けなくなる人も増えています。さらに、これらが元で「寝たきり」となっていく高齢者も増えています。

ただ現在の所、このような症例の研究はまだ少ないため、診察の基準となるようなデータベースの構築が待たれるところです。

脊髄損傷の症状

損傷の程度により、「完全損傷」と「不完全損傷」に分けます。「完全損傷」とは、脊髄の機能が完全に壊れた状態であり、脳からの命令は届かず、運動機能が失われます。また、脳へ情報を送ることもできなくなるため、感覚知覚機能も失われます。すなわち、「動かない、感じない」という状態となります(麻痺)。しかし、全く何も感じないわけではなく、ケガをした部位から下の麻痺した部位に、痛みや異常な感覚を感じます。

「不完全損傷」とは、脊髄の一部が損傷し一部機能が残った状態であり、感覚知覚機能だけが残った重症なものから、ある程度運動機能が残った軽症なものまであります。

受傷後、時間がたって慢性期になると、今度は動かせないはずの筋肉が本人の意思とは関係なく突然強張ったり、けいれん(痙攣)を起こすことがあります(痙性)。

麻痺の程度によっては、手ではハシを使うことや字を書くことが困難、あるいはできなくなり、特殊な道具が必要となります。足では歩くことが困難、あるいはできなくなり、杖や車イスが必要となります。さらに、高い位置の頚椎レベルで脊髄損傷となると手足だけでなく呼吸筋まで麻痺し、人工呼吸器なしには生きられなくなります。

排便や排尿などの排泄機能も障害されますから、オムツや導尿カテーテルなど、排泄に必要な道具が必要となります。また、男性では勃起などの性機能も障害されます。

運動・感覚だけではなく、自律神経系も損傷されます。麻痺した部位では代謝が不活発となるため、ケガなどは治りにくくなります。また、汗をかく、鳥肌を立てる、血管を収縮/拡張させるといった自律神経系の調節も機能しなくなるため、体温調節が困難となります。

脊髄損傷の合併症

脊髄損傷による麻痺以外に、色々な全身の合併症が発生します。呼吸器合併症、循環器合併症、消化器合併症、泌尿器合併症、褥瘡などがあります。いずれも生命にかかわる重大なものです。

(1)呼吸器合併症(頚椎部脊髄損傷の場合)

高い位置の頚椎レベルで脊髄損傷となると手足だけでなく呼吸筋まで麻痺し、人工呼吸器なしには生きられなくなります。低い位置の頚椎レベルの脊髄損傷でも、セキがうまくできないので、タンづまりや肺炎を起こしやすくなります。

(2)循環器合併症

脈が遅くなったり(徐脈)、起き上がったときに低血圧となります(起立性低血圧)。足が動かせないことから、深部静脈血栓症(エコノミー・クラス症候群)を生じやすくなります。

(3) 消化器合併症

ケガをしたばかりの急性期には、ストレス性胃潰瘍・十二指腸潰瘍の危険性があります。もし、潰瘍で胃や腸に穴があいても(潰瘍穿孔)、痛みを感じないので、手遅れとなることがあります。また、胃腸の動きも悪くなりますから、腸閉塞(麻痺性イレウス)となることもあります。

(4) 泌尿器合併症

排尿機能が障害されたことにより、尿にバイ菌がつきやすくなります(尿路感染症)。尿路感染症から全身にバイ菌がまわってしまい(敗血症)、死にいたる方がたくさんみえます。尿路感染症を防ぐためには、陰部や排尿に使用する器具の清潔管理・操作が重要です。

(5) 褥瘡(床ずれ)

普通の方は、長時間同じ姿勢で座っていたり横になっていると、床にあたっている部分の血流が不足し、しびれるので無意識的に座っている格好を変えたり、寝返りを打ったりしています。ところが、脊髄損傷によって感覚を失っているとそれがわからず、圧迫された部位が血行不良となって、皮膚や筋肉などの組織が壊れてしまいます(壊死)。褥瘡が発生すると、ここにもバイ菌がつきやすくなります。褥瘡を防ぐためには、こまめに体位を交換する(自力でできない場合は介助が必要となる)しかありません。

脊髄損傷の受傷原因

現在日本には10万人以上の脊髄損傷者がみえ、毎年5,000人以上の新たな脊髄損傷患者さんが発生しています。日本脊髄障害医学会の1990~1992年の調査によると、受傷原因の割合は次の通りです。

・交通事故 43.7%

・高所からの落下 28.9%

・転倒 12.9%

・打撲・下敷き 5.5%

・スポーツ 5.4%

・その他 3.6%

 しかし、これらの調査は約20年前のものなので、若年者の脊髄損傷が多く含まれています。現在では若年者の脊髄損傷は減少し、高齢者の脊髄損傷が増加していますから、転倒・転落によるものが増加していると考えられています。

脊髄損傷患者の動向

脊髄損傷患者の動向(疫学)に関しては、日本脊髄障害医学会による1990~1992年の調査が最も大規模で有名なデーターです。その後も、全国労災病院脊髄損傷データーベースにて、疫学調査が行われています。

これらのデーターで重大な問題となることは、以下の点です。

(1)より深刻な後遺症を残す頚椎部の脊髄損傷が約75%を占める。

(2)頚椎部の脊髄損傷が増加し続けている。

(3)高齢者ほど頚椎部の脊髄損傷の割合が高い。

(4)高齢者の骨が折れない頚椎部の脊髄損傷(非骨傷性頚髄損傷)が増加し続けている。


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最後に

調べれば、調べるほど・・・

余りにも情報がおおくて・・・

あれもこれも、となってしまいました。

ありがとうございました。

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慈善活動 Eagle Ltd,

Eagleといいます。 頸椎損傷から31年が経ちました。 パソコンのパの字も知らなかったのに今ではこうしたこともできるようになりました。「頑張るあなたにエールを!」をテーマに、YouTubeやブログを通して情報の発信を行っています。